こんな思い込み、ありませんか
「氷は冷たいから、菌は繁殖しない」
「透明な氷なら、きれいに決まっている」
第1回では、製氷機の氷が決して「無料」ではないこと、そして氷の品質を決めるのは水源ではなく凍結プロセスであることをお話ししました。今回は少し緊張感のある話──食品安全です。結論から申し上げます。氷は法律上、れっきとした「食品」です。
氷は調味料と同じ「食品」
食品衛生法に基づく「氷雪の成分規格」により、氷は法律上「食品」として定義されています。適用される衛生基準は、融解水1ml中の細菌数100以下・大腸菌群陰性。調味料やドレッシングと同じカテゴリーに属し、製造・保管・搬送のすべての工程で衛生管理が求められます。
「氷は低温だから菌は繁殖しない」という認識は、誤りです。
ノロウイルスは−20°Cでも生存する
製氷機の内部は、水と適度な湿度が常に存在する環境です。蒸発皿、給水タンク、氷の貯蔵部(ストッカー)には、水垢やバイオフィルムが発生します。
そして、見過ごされがちな事実がもうひとつ。ノロウイルスは−20°Cでも生存します。 冷凍はウイルスを不活化しません。休眠状態にするだけです。
2012年、食品ウイルス学の専門誌「Food and Environmental Virology」(Springer)に掲載された査読済み論文(Kingsley et al.)は、ノロウイルスGII.4株が−80°Cでの凍結・融解を14回繰り返した後も、カプシド(殻)の完全性を保持し、感染力を維持していたことを報告しています。
「冷凍庫に保管しているから安全」という前提は、科学的には成立しにくいのです。そしてもう一点──氷の透明度と細菌の有無は、まったく無関係です。透明度は凍結速度で決まる変数であり、微生物の有無とは別物です。
今日からできる製氷機の衛生管理
厚生労働省のHACCPの考え方に基づくと、業務用製氷機の清掃基準は次のとおりです。
- エアフィルター:週1〜2回の清掃。 埃の蓄積は冷却効率を下げ、カビの温床になります。
- 製氷機内部・ストッカー:週1回以上の清掃。 氷を全て取り出し、内壁を食品用洗剤で洗浄。水垢・バイオフィルムの除去を確認してから再稼働を。
- 凝縮器・給水回路:年1回以上、専門業者による分解洗浄。 日常清掃では届かないスケール(水垢の固着)を除去します。
- 記録の保管:清掃の日時・内容・担当者を記録。 記録がないと、万一の食品事故で「管理責任を果たしていなかった」と判断される根拠になり得ます。
ここまで徹底している店舗は、実際には限られています。だからこそ、徹底する店舗との差が生まれます。
「HACCP認証氷」という選択肢
2021年より、食品を扱うすべての事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務化されました。製氷業者も例外ではありません。認証を取得した製氷所から仕入れた氷には、明確な価値があります。
- トレーサビリティ。 製造日・保管温度・搬送記録がロット単位で追跡可能。万一の際も即時に原因特定ができます。
- 記録による証明。 「おいしい氷」ではなく「安全性を第三者機関が証明した氷」とお客様に説明できます。
- 根拠ある差別化。 メニューやSNSに「HACCP認証氷使用」と表記できる。同業者が容易に模倣できない、事実に裏打ちされた差別化です。
仕入れ先を選ぶときは、「安い・高い」だけでなく、「その氷の安全性は、誰が証明しているのか」という視点をお持ちください。
次回予告
次回・第3回は、いよいよ核心です。「なぜ純氷は透明なのか」──“○○の天然水使用”という通説を、偏析作用という物理法則から科学的に検証します。あなたが氷に支払っているプレミアムの正体が見えてきます。
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